旅行中、台風情報と同じくらい心配だったのが……のりちゃんのことでした。
「酒井容疑者」と呼ばなくてはいけないのでしょうが、「のりちゃん」と呼ばせていただきます。
のりちゃんと初めて会ったのは、1991年、旧・東京宝塚劇場での『喜劇 雪之丞変化』という、三木のり平さん演出・主演の和物の芝居での共演でした。
これが、のりちゃんにとって初舞台。
お誕生日が2月14日の彼女。ちょうど「20歳のバレンタイン」(たぶん…)という歌を歌っていた時期でした。そして公演中に20歳のお誕生日を迎えました。
緞帳が下りた後、衣装のまま舞台上に出演者は残り、用意した大きなバースデーケーキを前に、ハッピ~バ~スデ~を歌い…
そうしたらのりちゃん、ボロボロと泣き始め…
そんなに泣かなくても…と思うほど泣くのりちゃんを見て、それは「うれしい!」だけの涙ではないな…と感じました。
初めての舞台。テレビと違って慣れないことばかりで、かなり緊張していたと思います。
また、白塗りの化粧をはじめ自分でやらなくてはならないことばかり。舞台稽古から初日開いて数日間は、共演者の女の子がお化粧してあげていたけれど、ある時から自分で。慣れないから狸ちゃんみたいな化粧になっていましたね…
初舞台ののりちゃんを、のり平さんはじめ、出演者&スタッフ全員、温かくフレンドリーに接しました。
だけど薄くバリアを張っているような感覚を感じていました。笑っていても、心からの笑顔なのかどうかわからない…ような。舞台に立つのは嫌だったのかも…と思ったり、“私は人気アイドルなのよ”という意識が強いのかな?と思ったり…。
多過ぎる涙は、その諸々、不安や緊張がほぐれたからだわ…と、可愛く泣きじゃくるのりちゃんを見て思ったものです。
約1年後、宮本亜門さん演出・大地真央さん主演の『サウンド・オブ・ミュージック』の稽古場で、再びのりちゃんに会いました。
のりちゃん、舞台出演2作目。そして初ミュージカル。
和物の喜劇とミュージカル。全く違う作品での再会は、のりちゃんと、びー様(尾藤イサオさん)と私の3名だけで、お互い偶然に驚いたものでした。
のりちゃんは長女のリーズル役。ここでの彼女の凄い頑張りを忘れません。
中村繁之君演じるロルフとの有名な長~いナンバー。このダンスの振りがとんでもなくって…
振り付けはもちろん亜門さんなのですが、“足を床に着ける間もなく5連発!”ぐらいなリフトを入れたのです。
繁ちゃんはジャニーズだけど、歌振りぐらいしか踊れないのりちゃんに、ダンスがものすごく上手い人でも無理だよ~と思うくらいの凄いリフト。
見ていて可哀想なくらい、出来ないのです。何日経っても。
ダンスリーダーのKちゃんが二人に付きっ切りで、毎日稽古の始まる前に自主練習をするのですが、少しずつは進歩しても、まだまだ…
「この状況を見て亜門さんは振りを変えるだろう…」「お願い…もう少し簡単なのに変えてあげて…」と思ったものですが、さすが亜門さん。変えない。信じていたのでしょうね。
5連発リフトが出来たのは、稽古場最終日…宝塚でいうところの本通しの日でした。
毎日息を殺して見守っていた出演者一同、立ち上がって大喝采しました。
その後本番が始まり、女性大部屋楽屋では毎公演、二人のダンスシーンになると、着替えながら化粧を直しながらモニターを見て「繁ちゃん!」「のりちゃん!」「がんばれ~!」と声援していました。
リフトの高さや早さやタイミングに少々難はあっても「失敗」という回は1度もなく。モニターでもあきらかにわかるほど、踊りながら繁ちゃんは足を捻ってしまった回もありましたが、のりちゃんを落とすことはなく。
本当に凄く頑張った2人でした。
毎日かなりのプレッシャーだったでしょうが、舞台も2度目だからか、のりちゃんも自然体になったようで…。
毎朝の希望者のみのストレッチにも1番後ろで参加したり、腕に手を回してきて甘えたりして、猫のように可愛い可愛いのりちゃんでした。
舞台袖で、楽屋で、パーティーで、のりちゃんと撮った写真は何枚も。この頃に戻れたら…。
そう。猫のようで、つかみ所がなくって、心にバリアを張ることがあって……。
でも彼女は強さを持っている人だと私は思っています。
「覚醒剤に手を出す人は弱い人だ」「芸能人は浮き沈みが激しいから、その不安から…」と言いますが、彼女は強いはず。滅茶苦茶強いはず。
だからこそ好奇心からだった…と思ってしまいます。
昔「人間やめますか?それとも覚醒剤やめますか?」というCMを見たとき、どれほど驚いたことか…
覚醒剤に手を出す人は、遠い世界の一部の人だと思っていたのに、こうしてテレビCMで一般人に訴えるほど蔓延している…という事実に。
それは今も変わらず、人から憧れられるべきはずの芸能人にも絶えません。
だけど芸能界という世界は、甘いというか温かいというか…。受け入れる器があります。
“罪を犯しても、人はやり直すことができる”…。それは大切なことだし、そのための信頼回復や努力は並大抵のものではないでしょう。受け入れること自体は構わないと思います。
でも、芸能人をはじめ著名人の持つ影響力の大きさを加味すると、そんなに易々と受け入れてしまっていいものだろうか…?と思うのです。
娘たちに「あの曲を作った人も薬物犯罪を…」「バラエティー番組によく出ているあの人も…」と教えると驚いていました。
「たとえ1度でも薬物に出を出すと、人間ボロボロになるんだよ…」とどんなに教えても「でもあのタレント、あんなに元気にテレビに出ているじゃん」「少し経てばクスリから抜けられるんだよ」「だから少しぐらい……」なんて思う若者はいるはず。これは恐ろしいことです。
あまりにイメージを壊してしまったから、のりちゃんの復帰は難しいでしょう。厳しいけれど、それも彼女にとってはいいことかと。
“ママドル”“妻”“女”……。いくつもの酒井法子がいる…。でも世の中に“ママドル”も“妻”も“女”も山ほどいます。でも貴女の息子の母親は貴女だけ。
自分にとって1番大切なものは何か……?
頭を冷やして考え、その大切なもののために、新しい道を歩き直す強さはある。
だから、頑張ろう。頑張ることのできるのりちゃんだから。